microshovelです。翻訳者になりたいけど得意な分野がない、という人には契約書の分野がおすすめです。
この記事では、翻訳を始めようとする人にとって契約書の分野がおすすめである理由、そしてその勉強のためにおすすめの3冊を紹介しています。
翻訳には得意の分野が必要?
翻訳者になるには得意とする翻訳分野が必要だ、とよく言われます。
IT翻訳とか、メディカル翻訳とか、特許翻訳などの何かしらの分野ですね。
何でも訳します!という人もいるみたいですけど、どの分野も均等のレベルで訳せるなんてことは通常ないので、何かしら自分がメインにしている分野があるはずです。
翻訳会社の担当者からしても、「この分野なら〇〇さん」と言う具合に思っているはずです。
実際にトライアルの時点から翻訳分野を選択することになりますし、翻訳会社に登録する際にも翻訳分野を指定することになります。
ところが、もともと専門分野があって翻訳を始めようとする人は別ですが、もともと英語好きなところから翻訳者を目指す場合には得意分野などないのが普通です。
そこでジレンマに陥る人が多いようです。
つまり、実際の仕事をしたことがないからある分野が得意とは言えないし、かといって実際の仕事を得るためには得意分野を作らないといけないし、という訳です。
この手のジレンマはありがちです。
よくあるのが翻訳歴です。翻訳経験がないからトライアルに合格しない、でもトライアルに合格しないから翻訳経験を積めない、というものです。
こういうときは、臆せずにある意味で開き直って正面突破するしかありません。
翻訳歴が問題なら、過去の経験をかき集めましょう。
誰かに頼まれてちょっと訳してあげたとか、仕事上の資料を訳したことなども翻訳歴に入ります。
こう言ってはなんですが、翻訳歴というのは自己申告ですし、あくまで目安であって最重要なのは訳文そのものですから、翻訳歴はある程度盛っても構わないと思います(責任は負えません😅)。
翻訳分野についても同様です。
ある程度勉強した分野であれば、自信をもって「得意分野は〇〇です!」と言うべきです。
どうせ実力が伴っていなければ仕事が来なくなりますから(笑)、気にすることはありません。
大事なのはまず最初の仕事を得ることです。そこで全力を尽くせば良いのです。
契約書の分野をおすすめする理由
もちろん全く知らない分野を得意だという訳にはいかないので、ある程度の勉強はしておく必要があります。
では、いまから勉強を始めるとしたらどの分野の勉強が良いでしょうか?
わたしは契約書をおすすめします。
理由は5つあります。
- 特有の表現・語彙さえ覚えれば翻訳しやすい
- 一文が長く論理的な思考を要求されるので、他の分野に応用しやすい
- 他の分野に比べて専門知識が習得しやすい
- 専門知識の更新頻度が低い
- 仕事が比較的安定している
<特有の表現・語彙さえ覚えれば翻訳しやすい>
英文契約書には特有の表現がたくさん出てきます。"whereas"とか、"WITNESSETH"とか、"including, but not limited to"などなど。
これが理由で取っつきにくさを感じている人もいるかもしれませんが、逆に言うと、特有の表現さえ覚えれば一気に翻訳しやすくなります。
特有の表現や語彙はそんなに山ほどある訳ではありませんので、ある程度集中的に学べば習得可能です。
<一文が長く論理的な思考を要求されるので、他の分野に応用しやすい>
英文契約書はとにかく一文が長いです。ときには1つのページに記述された英文がまるまる1つの文だということすらあります。
という訳で、契約書を読むときにはとくかく文の構造を常に意識する必要があります。
文の構造を意識することで身に付いた読解力・解釈力は、他の翻訳分野に挑戦するときにも大きな力になります。
<他の分野に比べて専門知識が習得しやすい>
こんなことを言うと、専門家の皆さんには怒られるかもしれません。
確かに契約書の翻訳を極めようとすると、英米法や大陸法、各国の司法制度、法務の実務などについて膨大な知識が必要です。
しかし、誤解を恐れずに言うと、問題ないレベルの契約書の翻訳ができるようになるために法律専門家になる必要はありません。
契約分野に関係する基礎的な法律知識があれば、翻訳は可能です。
人にもよりますが、これがIT翻訳やメディカル翻訳だと専門知識を得るだけで何年もかかってしまいます。
<専門知識の更新頻度が低い>
これも怒られそうですが…(笑)
IT翻訳やメディカル翻訳だと、最先端の知識は日々更新されますから、遅れずについていくのが大変です。
ところが、法律分野自体は常に更新されますが、契約書に関係する分野の知識や特有の表現・語彙はほとんど変わりません。
ITやメディカルなどのように先端知識を得ることの楽しさもあるでしょうが、わたし自身は決まった分野を時間をかけて深く知る方が好きです。
同じような傾向の人に向いていると思います。
<仕事が比較的安定している>
ITや自動車などの分野は景気の影響をもろに受けます。
ところが、契約書の分野はそれらに比べると不況期でも仕事は安定しています。
フリーランスの翻訳者にとって仕事が安定していることは大きなメリットです。
以上の5つの理由から、勉強する翻訳分野に悩んでいる学習者の方には契約書をおすすめします。
契約書の勉強におすすめの本3冊
以下に簡単にではありますが、英文契約書の勉強におすすめの本3冊を紹介します。
1.『英文契約書の基礎知識』宮野準治/飯泉恵美子 著(ジャパンタイムズ)
英文契約書の入門書としては定番でしょう。基本的な事項が網羅されており、説明も詳しいです。
この本の内容をひと通り理解すれば、とりあえず英文契約書翻訳の仕事を開始するレベルには到達します。
1つだけ決定的な欠点は、秘密保持契約書に関する説明がないことです。
実務において秘密保持契約書はかなり頻繁に発生します。
わたしの場合は、仕事としていただく契約書案件の内、3~4割が秘密保持契約書です。
その分野に関する記述がないのは痛いです。
次回の改訂で増補してくれることを期待している人は多いと思いますが、その気配はありません。
2.『ひと目でわかる英文契約書』野口幸雄 著(かんき出版)
この本も内容がとても豊富で、かつ説明も分かりやすいです。
基礎編と契約例編の2部構成になっており、実務にも使えます。
上記の本になかった秘密保持契約書もしっかり載っていますので安心です。
3.『契約・法律用語英和辞典』菊地義明 著(IBCパブリッシング)
コンパクト版もあります。むしろコンパクト版の方が使いやすいでしょう。
契約書関係の辞典はいくつかありますが、実際の使いやすさという点ではこの本が一番でしょう。
説明はありません。用例が載っているだけです。
でもそのシンプルさが使いやすいです。
訳す際にこの辞典のお世話になったことは数え切れません。
以上、翻訳を開始する分野として契約書がおすすめであること、そしてその勉強のために役立つ本3冊を紹介しました。
皆さんの参考になれば幸いです。