microshovelです。今日は、英文読解に関する本のなかでもわたしが「誤訳モノ」と呼んでいる本についておすすめを紹介します。
誤訳を分析することは、英文を正しく読むことに役立ちます。
どこで間違ったのか、どう間違ったのかが明らかになるからです。
学校での勉強の練習問題でも、正解した問題よりも不正解だった問題を復習した方が正答率は上がります。
学校の先生から「正解したところはいいから、間違ったところを見直しなさい」と言われたことのある人は多いと思います。
英語の学習でも同じで、初級から中級レベルでは基本的に「正解するための勉強」だけをやっていればよいですが、中級から上級になると「間違わないための勉強」が効果的だったりします。
「誤訳モノ」とは何か?
誤訳モノとは一言で言うと「誤訳を取り扱っている本」ということになります。
しかし、わたしがここで言う「誤訳モノ」の定義は次のとおりです。
「学生から翻訳者までのさまざまな人による誤訳を題材にして、どこで間違ったのか、どう間違ったのかを分析することにより、英文を正しく読むための本」
誤訳を取り扱った本はさまざまです。試しにAmazonで「誤訳」と検索してみてもさまざまな本が表示されます。
しかし、一般的に誤訳を取り扱った本というと次の2つに大別されると思います。
- 翻訳者による誤訳を指摘することを主眼とする本
- 誤訳を分析し、そこから学ぶことを主眼とする本
例えば、前者に当てはまる本としては、誤訳関係の本としては有名な別宮貞徳氏による一連の書籍があります。
この人は『実践翻訳の技術』のような正しく訳すための本も書いているので、一概に悪くは言えないのですが、全体として他の翻訳者をあげつらう内容が多いです。
題名だけを見てみても、『特選誤訳・迷訳・欠陥翻訳』、『翻訳はウソをつく』、『やっぱり誤訳だったのか!』など、割とあおり気味です。
極めつけは『悪いのは翻訳だ!』完全に悪者扱いです(笑)
本の帯には「読みにくかったら「誤訳」と思え!」とまで書かれています(笑)
これらの本が書かれたら当時は翻訳者のレベルにもばらつきが大きかったようですし、本職ではない大学教授が訳した読みにくいことこの上ない翻訳もありますので、言いたいことも分かります。
確かに間違いは正されるべきですし、翻訳者は勉強すべきですが、あまり人のミスをあげつらうような内容はどうかと思います。
今回取り上げるのは後者の「誤訳を分析し、そこから学ぶことを主眼とする本」です。
このあと取り上げる『誤訳の構造』(中原道喜著)のはしがきにあるように、「誤訳をあげつらう本ではなく、誤訳から学ぶための本であり、誤訳を防ぐための本」を取り上げます。
『誤訳の構造』中原道喜著(聖文新社)
わたしのイチ押しの誤訳モノです。
名詞、前置詞、助動詞などの各項目ごとに全部で188の例文を取り上げて、詳しく解説されています。
非常にまじめで、ある意味では硬い文章ですが、最後までやり抜けば確実に実力がつきます。
著者のまじめさは、本の最初の方でまず「誤訳とは何か」を定義し、さらに単なる悪訳と誤訳の違いなどを懇切丁寧に説明するところにも表れています。
著者の言葉を借りると、誤訳とは、「原文の語句・構文や意味内容についてのはっきりと誤った解釈に由来するものというのであって、訳語の主観的選択の適否といった次元のものではない」ということになります。
例えば、
原文:Most of them grinned awkwardly, shuffled.
訳文:警察の大半は、うすきみ悪いにたにた笑いを浮かべ、だらしないかっこうをしていた。
において、"awkwardly"を「にたにた笑い」と訳すのは一般的にはかなり無理であって、ふつうは「きまり悪そうに」などと訳すのが標準的です(なお、これは小説の一部なので前文からthemが警察官であることが分かっています)。
しかし、どの訳語が適切かというのは主観的な意味合いが強く、この例は原文の意味からややずれているかも知れないが本当の意味での誤訳とは呼ばない、というのが著者のスタンスです。
さらに、誤訳と悪訳がどう違うかというと、誤訳は先ほど述べたとおり原文の解釈自体が間違っているものですが、悪訳とは、解釈そのものは正しくても、訳文を通して原文の内容の正しい理解に到達することが困難な訳文ということになります。
極めて正確かつ明確な定義です。
さまざまな例文に対してもこの調子できちきちと分析していくのですから、本の内容もなんとなく想像がつくのではないでしょうか。
決して簡単な本ではないですが、間違いなく役立つ本です。
なお続編の『誤訳の典型』もありますが、こちらも良書です。
『日本人なら必ず誤訳する英文』越前敏弥著(ディスカヴァー携書)
有名翻訳家による本で、しかもよく売れましたからご存じの方も多いと思います。
わたしがこの本を読んだのはもう10年前ですが、初めて読んだときに頭の中がとてもスッキリした感覚を覚えています。
特に感銘を受けたのが「否定」の項目です。
例えば、否定の項目の最初に次の4つの例文が出てきますが、それぞれの意味が正確に分るでしょうか?(順に難しくなります)
(1) This is mine. Not yours.
(2) I don't feel like talking to hime. Not today.
(3) I feel like talking to hime. Not yesterday.
(4) She didn't have an umbrella. Not when it was raining.
わたしはこの部分の解説を読んで、控え目に言って何枚も目から鱗が落ちました。
それと、本文の合い間に「ちょっとひと息interview」という著者のインタビューコーナーがあるのですが、このいんたインタビュー非常に参考になり、かつやる気のでる内容でした。
翻訳だけでなく、英語を正しく読むということに興味のある方なら読んで損はありません。
なお、この本は決定版と銘打たれた改訂版が今夏に出版されたようです。
『英語力を鍛えたいなら、あえて訳す!』山本史郎・森田修著(日本経済新聞出版社)
題名に著者の主張が前面に出てますね。題名に読点が含まれる本はだいたいそうですが。
この本の主張は「はじめに」にある「英語を理解するには、いちおう訳したものをもう一度眺め直して、あらためてそれが「どんな意味」なのかを考えて、納得するというプロセスが欠かせません。」という文に凝縮されているように感じます。
大学までの英文和訳の影響で、多くの人が英語をいちおう日本語に置き換えることはできるのにその英文が実際に意味する内容が分からない、ということが起こりがちです。
大学受験の英文和訳はなかなかすごい技術で、"for the purpose of ~"なら「~のために」、"Instead of ~"なら「~の代わりに」などと数多くのフレーズの訳語をあらかじめ決めておくことによって、実際の英文を見たときに出てきた単語やフレーズをその訳語に置き換えれば、とりあえず日本語文が完成する仕組みになっています。
それが採点するのに一番都合が良いからですが、出来上がった日本語文を見ると「で、結局どういう意味?」となることも多いです。
翻訳は英文和訳とは違い、単語やフレーズではなく、意味を置き換える作業ですからそんなことは起きなさそうなものですが、残念ながら気を付けないと起きてしまいます。
翻訳者は「原文との距離が近すぎる」と表現しますが、ついつい原文に引っ張られて意味の分からない日本語を書いてしまうことがあります。
それを防ぐのが、出来上がった訳文を一晩置いて、単純に日本語として意味が通じるかをチェックする工程です。
この本はそんなところにも触れており、翻訳者を目指す人にとって役立つ1冊となっています。
『名訳を生み出す翻訳トレーニング』山本史郎著(秀和システム)
この本も、上に挙げた『英語力を鍛えたいなら、あえて訳す!』の共著者の一人である山本史郎氏が書いたものです。
上の本もこの本も特に誤訳を謳った本ではありませんが、いかに誤訳を防ぐかという観点から書かれているので取り上げます。
この本は『あえて訳す!』の内容がより体系的になったような本です。
練習問題が主体になっているので、翻訳のトレーニングを目的とした本だと言えると思います。
この本の良さは解説が丁寧かつ詳しいことです。
基本的な文法は理解して、これから翻訳の勉強を始めたいという人には間違いなくおすすめです。
『英語脳の鍛え方』金子光茂 リチャード H.シンプソン著(南雲堂)
副題には「英文を正しく読む18のツボ」とあります。
本の帯に書かれているように、どうすれば誤訳を回避できるかに焦点を当て、誤訳ゼロに限りなく近づける工夫と対応策が書かれた本です。
練習問題もありますが、読み物としても気軽に読める本です。
とは言え、決してレベルが低いという訳ではなく、なかなか噛み応えのある本です。
文法項目の解説に留まらず、翻訳をする上での心構えのような内容にまで触れられているので、こちらも翻訳者を目指す人は一読の価値ありです。
さて以上、誤訳モノの本を5冊紹介しました。気になる本はありましたか?
誤訳を題材に英語や翻訳を学ぶという方法は間違いなく有効な方法です。
気になる本から試してみてはいかがでしょうか?