microshovelです。先日の記事で翻訳者になるなら契約書の分野がおすすめと書きました。
今日は、契約書の分野に進むべきかどうか迷っている方に向けて、実際の翻訳の例を少しだけ示します。
まずは、わたしが受注する契約書案件の中でも最も多い「秘密保持契約書」を実際に訳してみます。
なお、わたしは法律の専門家ではありませんので、法律的な背景に関してはほとんど触れず、契約書の翻訳に関する側面だけを扱います。
素材はネットで入手した雛形をわたしが手直ししたものです。
では、さっそく行ってみます。ごく一般的な前文から。
<一般的な前文>
Non-Disclosure Agreement
This Non-Disclosure Agreement (hereinafter, the "Agreement") is made and entered into as of __ day of __, 20xx(hereinafter, the "Effective Date") by and between ABC Corporation (hereinafter, "ABC" or a "Party" ), a company incorporated and existing under the laws of the States of __, located at ___, and XYZ Co.,Ltd.(hereinafter, "XYZ" or a "Party"), a company incorporated and existing under the laws of Japan, located at ___ (ABC and XYZ may be referred to collectively in this Agreement as the "Parties", and individually as a "Party").
<訳例>
秘密保持契約書
本秘密保持契約は、20xx年_月_日(以下、「発効日」という)に、_州法に基づいて設立され存続し、__に所在するABC Corporation(以下、「ABC」という)と、日本法に基づいて設立され存続し、__に所在するXYZ Co.,Ltd.(以下、「XYZ」という)との間で締結された(以下、本契約書においてABCおよびXYZのことを合わせて「両当事者」と呼び、個別には「当事者」と呼ぶ)。
<簡略化された前文>
MUTUAL NON-DISCLOSURE AGREEMENT
BETWEEN
ABC Corporation. [address]
AND
XYZ Co.,Ltd. [address]
Subject Matter: [project or product name]
Effective Date of Agreement:
Period for Exchange of Information:
Period of Confidentiality:
This Agreement is made as of the Effective Date of Agreement noted above, by and between the above parties.
<訳例>
相互秘密保持契約書
契約当事者
ABC Corporation [住所]
および
XYZ Co.,Ltd. [住所]
契約の主題:[プロジェクト名または商品名]
契約発効日:
情報の交換期間:
秘密保持期間:
本契約は、上記の契約発効日に上記の契約当事者間で締結された。
<簡単な解説>
まず「契約書」という言葉についてですが、一般には「契約書」と言えば英語で"Contract"という語が浮かびますが、実際には"Agreement"ということがほとんどです。
「秘密保持契約書」は、英語では"Non-Disclosure Agreement"(略してNDA)ということが多いですが、"Confidentiality Agreement"ということもあります。訳語はどちらの場合でも「秘密保持契約書」で構いません。
文書の一番上の部分はこの文書自体のタイトルですから「秘密保持契約書」と訳しますが、それ以降、基本的に文中では“書”を付けずに「秘密保持契約」です。
<一般的な前文>で紹介したのが、最も一般的な形だと思います。
ちなみに英日ではなくて、日本語から英語に訳すときにもこの形を使います。
日本語の場合だと、「ABCとXYZは、この契約書を締結した」というように当事者が主語になっているケースが多いと思いますが、その場合でも"ABC and XYZ have made and entered into this Agreement"などとはせずに、"This Agreement is made and entered into ~"と契約書を主語にして訳すのが普通です。
なお、英文契約書のテキストには、WITNESSETHを使った前文が記載されていることも多いと思いますが、わたし自身は、WITNESSETHを使った前文は最近あまり見かけません。
次に経緯(リサイタル)の部分です。
<一般的な経緯(リサイタル)条項>
1. Purpose of Disclosure ("Purpose"). ABC wishes to discuss with XYZ opportunities for possible joint business with XYZ, and in connection with such discussions or in the conduct of any resulting business, ABC and XYZ may disclose certain technical and business information which the disclosing party desire the receiving party to treat confidential. To ensure the protection of such Confidential Information (as defined in Section 2 below) and in consideration of the agreement to exchange information, the Parties agree as follows:
<訳例>
1.開示の目的(以下、「本件目的」)。ABCは、共同事業を行う機会の可能性についてXYZと協議することを望んでおり、かかる協議において、またはその結果生じる事業の実施において、ABCおよびXYZは、開示を受ける当事者に対して秘密に保持して欲しいと望む技術的・ビジネス上の情報を相手側に開示する可能性がある。かかる秘密情報(下記第2条で定義する)を確実に守秘するため、また情報交換の同意を約因として、両当事者は以下の通り合意する。
<簡略化された経緯(リサイタル)の部分>
BACKGROUND:
I. The parties desire to have discussions of or relating to the Subject Matter for the purpose of evaluating a possible business relationship between the parties ("Purpose").
II. Such discussions between the parties may involve disclosure by one party to the other party of confidential, proprietary or trade secret information of its own or its licensers ("Confidential Information" as defined below).
THEREFORE, in consideration of the Subject Matter, and the mutual promises herein, the parties agree as follows:
<訳例>
契約の背景
1.両当事者は、両当事者間に取引関係を築く可能性を評価する目的(「本件目的」)で、契約の主題について協議することを希望している。
2.両当事者間のかかる協議においては、自己または自己のライセンサーの秘密情報、専有情報または企業秘密に関する情報を、一方の当事者が他方の当事者に開示する可能性がある。
よって、契約の主題ならびに本契約に記述された相互の約束を約因として、両当事者は以下の通り合意する。
<簡単な解説>
経緯というのは、リサイタル条項(Recitals)と言うもので、要は契約に至った経緯を記述した部分です。
"Purpose of Agreement"とか、"Background"とか呼ばれたりもしますが、意味は同じです。
単語の最初の文字が大文字になっている語は、定義済みのキーワードです。
例えば、"Purpose"とあれば、「本件目的」とか、「本目的」とか訳すことが多いです。
今回の文章は、やや回りくどいところはありますが、文の構造自体はそんなに難しくないと思います。
今回の文章を読んで、文の構造がよく分からないという場合は、まずは英語の読解力を鍛える必要がありそうです。
どうでしょうか?契約書の翻訳はできそうですか?
そんなに難しい単語はないと思います。
ただ、回りくどいところが契約書の特徴ですね(笑)
そこがそんなに気にならない人にとっては、契約書の翻訳はおすすめです。
逆に今回の例文を見ただけで、「ウェッ」となった人には向かないかも知れません。まあ、やってみれば慣れますけどね。
今回は、契約書の翻訳について、実際の翻訳の仕方を紹介してみました。
興味ある皆さんに少しでも参考になれば幸いです。