英検攻略

【経験談】翻訳を勉強するためのおすすめ本3冊

microshovelです。この記事では、翻訳の勉強をする上でみなさんにおすすめできる本を紹介しています。どの本もわたしが実際に使用して、役に立ったと感じるものばかりです。それではいってみましょう。

土台作り+α:『英文翻訳術』

ひとつめは、『英文翻訳術』安西徹雄著(ちくま学芸文庫)です。
この本は、ひとことで言うと、わたしの翻訳人生の土台を作ってくれた本です。翻訳の技術について書かれた本としては今でも最高のものだと思います。わたしはこれまでに5回は通読しました。部分的に読み返した回数は数えきれません。

この本の最大の特長は、英文法の枠組みを利用して翻訳技術を説明することを試みており、しかもそれが見事に成功している、ということです。

例えば、名詞や、関係代名詞や、受動態といった多くの人が学んだ英文法の項目ごとに、その項目に応じた処理の仕方が解説されています。なので、あとから辞書的に読み返す際にも便利です。

わたしがこの本から学んだことはたくさんありますが、そのひとつが、「原文の思考の流れを乱さない」ということです。例えば、これは本の裏表紙に書かれていることですが、
"Mishima Yukio used to be fond of saying that Japan and the United States should have another war."という文があります。
これを学校で習う英文解釈的に直訳すると、
「三島由紀夫はかつて、日本とアメリカはもう一つの戦争をすべきだと語ることを大いに好んでいた。」とでもなるでしょう。
しかし、この訳文だと、原文と違い「好んでいた(be fond of)」よりも、「もう一つの戦争をすべきだ(should have another war)」の方が先に来ているため、インパクトに欠けます。

では、安西氏による訳例はというと、こうです。
「三島由紀夫が、生前、好んで語っていたことがある。日本とアメリカはもう一度戦争をすべきだ。」

わたしは、この訳例を読んで、控えめに言って感動しました。「これが翻訳か…!」と。

もうひとつ学んだことは、「訳す際に品詞を変えても良い」ということです。当たり前ですが、英語と日本語では構造が違います。英語は名詞中心の構造で、日本語は動詞中心の構造です。

すなわちより自然な日本語にするために、英語の原文で名詞のところを動詞として訳しても良いということです。

これは同氏の別の著作(『英語の発想』)に出てくる例ですが、
"A slight slip of the doctor's hand would have meant instant death for the patient."という文があります。
直訳すると、「医者の手のほんのわずかの滑りが、患者のたちどころの死を意味したであろう。」となるでしょう。
見てわかるように「滑り」という名詞が「死を意味した」という構造です。
では、安西訳ではどうかというと、「医者の手がほんのわずかに滑っても、患者はたちどころに死んでいたであろう。」となります。
「滑っても」というように動詞的に訳していることが分かります。

その他にも、受動態を能動態として訳したり、形容詞を副詞的に訳したりすることもあります。日本語の構造に合わせて原文の構造を変換しても良いし、むしろ変換しなければならない、ということを学んだ本です。自信を持っておすすめします。

実践主義:『翻訳の布石と定石』

ふたつめは、『翻訳の布石と定石』岡田信弘著(三省堂)です。翻訳学校のサン・フレア アカデミーの学院長である岡田信弘氏の著作です。

この本はとにかく実践的な本です。しかも内容のほとんどは技術翻訳です。例えば、練習1の最初に出てくる例文は、こうです。
"The new nanopore sensor simplifies analysis of methylated DNA."
(新しいナノポア・センサーにより、メチル化DNAの分析が簡単になる。)
日本語を読んでも何のことかよくわからない、という人も多いかもしれません。

悪く言えば、翻訳の技術を学ぶ際に、内容に関する知識の不足がじゃまをする、と言えるかもしれません。解答例を見ずに訳してみようと思っても、分からない単語が多すぎて挫折するかもしれません。

良く言えば、内容は実際の翻訳に即したものなので、より実践的な内容を学べる歯ごたえのある教材と言えるかもしれません。

内容はスパルタですが、解説は、
x..... 解釈を誤った訳文
*..... 不自然な訳文
△..... やや不十分な訳文
無印..... 問題のない訳文
というふうに複数の記号を使って細かく説明しており、分かりやすいです(すべての例文に上の4つが示されている訳ではありません)。

翻訳者は検索が命:『AI時代の翻訳に役立つGoogle活用テクニック』

最後は、『AI時代の翻訳に役立つGoogle活用テクニック』(2018年)安藤進著(丸善出版)です。

わたしが読んだのは、旧版の『翻訳に役立つGoogle活用テクニック』(2003年)ですが、『AI時代の~』は、AI翻訳に関する情報などを追加した新装版とのことなので、基本的な内容は変らず、よりup-to-dateな内容のはずですのでこちらを紹介しました。

翻訳の勉強というと、どうしても英語の勉強が中心になりますが、実際の翻訳にあたっては英語力に加えて検索能力が非常に大切です。よく言われるように、翻訳力は、英語力+専門知識+表現力です。

検索能力は、このうちの専門知識にだけ関係するように思われがちですが、検索能力とは、単に知らない事柄を調べる能力ではありません。より自然な表現を追求していくという点で、英語力にも表現力にも関係しています。
著者の言葉を借りると、Googleは「生きた文章の表現辞典」であり、「Google検索のヒット件数を使い、語句の使用頻度を市場調査していくことによって、ネイティブスピーカーの言語感覚を疑似体験すること」ができます。

わたしは、プロの翻訳者が主催する勉強会に毎月参加しているのですが、その先生も「Googleによって翻訳は変わった。」、「Googleがないと翻訳ができない。」と口癖のように言っています。

翻訳力の底上げのためにおすすめの1冊です。

以上、3冊のおすすめ本を紹介しました。皆さんの参考になれば幸いです。

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